セカンドインパクトなるものが発生してから、15年が過ぎた。
現在でも何が起こったのか判明していないが、
全世界の政治、経済、産業、その他、すべてが白紙の状態になってしまった。
貧富の差は瞬く間に拡大し、ごく少数の支配層が国や人種を超えた、
新たな社会を形成したのだった。
これはそのような時代に出逢った、少年と少女の物語である。
The Island of Eden 〜 第2話 〜 |
「アンタ、馬鹿ァッ!」
シンジはその叫び声に心底驚いた。
人がいる。しかも日本語じゃないか!
でも口をパクパクさせながら、声のした方を見るだけで全く動けないのは、
予想通りのシンジ様であった。
「それはね、石で割って食べんのよ!」
再び、声が響いた。女性。しかもまだ若い女の声だ。
しかし、シンジはこんな場所で声が聞こえたことよりも、別のことに気を取られている。
何よりも、お腹が空いているのだ。
「あ!そうなのか。ありがとう!」
こういうところはとても素直で律儀なな少年である。
元々跡取息子にありがちな倣岸さはかけらもないところが、シンジの良さである。
シンジは大声で礼を言い、片手で持てる程度の石で果実を叩いた。
もちろんそれでは、傷がつく程度。
あれ?どうしてだろう?
もしかしたら、道具を使うことにかけては、オランウータン以下なのかもしれない。
シンジは何度も石で果実を叩くが、それは表皮が歪んで中がグチャグチャになるだけである。
首を捻るシンジに業を煮やしたのか、再び女の子の声が密林に轟いた。
「ああっ!もう見てらんないわ!」
次の瞬間、シンジの目の前に降って湧いたかのように忽然と現れた金色の物体。
「うわっ!」
驚かされることに慣れていないシンジは派手に尻餅をついた。
物体……、赤みがかった長い金髪の少女は手近の大きな石を振り上げて果実を打った。
見事に二つに割れる果実。
その瞬間、えも言えぬ甘美な香りがシンジの鼻を刺激した。
少女は残りの果実も綺麗に割ると、
「いい?こうして割るの。このオタンコナス!」
そう言い残すと、長い髪を振り乱し密林の中に姿を消した。
そのスピードの速いこと。
出現したのも早かったが、消えたのも一瞬だった。
シンジはその後姿が消えた跡を呆然と見ていた。
「どうして、服着てないの?」
やっぱりどこかずれてるぞ、シンジ様。
因みに少女は腰と胸に葉で織ったものを身にまとっていたのだが、
シンジ様の感覚ではフルヌードも同様だったのである。
但し、温室栽培されている彼はそれに欲望を覚えるより先に、不自然さを感じるだけだった。
しばらくぼけっとしていたが、空腹の本能に目覚めたシンジは、
生まれて初めてスプーンやフォークを使わずに果実を貪り食った。
最初は指で果肉をつまんで食べていたのだが、それでは口に運ぶ前に美味しい果汁が零れてしまう。
滅多に使わない脳髄を使ってみたシンジ様は、果実ごと口に持っていき巧く食べることに成功したのだ。
凄いぞ!シンジ様。
少しだけ成長できたのだ。
3個の果実はシンジの空腹感を満たし、
その場に大の字になった彼はその時ようやく大事なことを思い出した。
「そういえば、あの子、誰なんだろ?」
まだ、どこかずれているが、次の一言はシンジと少女が運命の出会いであったことを証明していた。
「可愛い子だったな…」
碇シンジ。15歳。生まれて始めて、ある特定の女性を『可愛い』と認識する。
しかも一瞬しか顔を見ていないにもかかわらず。
第2話 −終−
<あとがき>
第2話です。まだ、アスカは名乗ってません。
シンジよ、早く彼女を探すんだ。ここの読者なら、果実など投げ出して、即座に跡を追っていたぞ!
そして殲滅されるんだけどね…。